新規事業プロデューサー
R&Dとして始まった「Voice UI」という事業で、プロデューサー、そしてVoice UI/UXデザイナーとして、業界でもトップを走り続けている元木理恵。そんな元木の仕事にかける想い、そして、Voice UIの未来への想いについてご紹介します。
「ものづくり」への目覚めと「IT」との出会い
幼い頃からトランペットやユーフォニアムをはじめ、さまざまな楽器に慣れ親しんできた元木。学生時代は吹奏楽部でコントラバスを演奏していました。演奏活動の中で経験したステージの企画から、ものづくりのおもしろさに目覚め、「企画を仕事にしていきたい」と考えるようになった元木は、就職活動でも「ものづくり」かつ「企画ができるところ」という軸を持ち、主にエンタテインメント領域の事業を手がける企業を受けることを決めました。
元木 「音楽は映像やアーカイブとして残りますが、吹奏楽部時代に、それよりも実際に会場に来てくださったお客様が、おもしろいとか感動したという生の反応が大事だなと思ったんです。仕事をする上でも、 “人の記憶に残る ”ようなものづくりがしたいなと思って、そういう企画ができそうな職種を片っ端からあたりました」
時代は就職氷河期。なかなか思うように就職は決まりませんでしたが、そんな中、大手印刷会社のグループ企業から内定をもらい、元木はその会社への就職を決めました。最初に配属されたのは、住宅や住宅設備の企業がクライアントの部署。入社から2~3年はカタログやパンフレットなどの企画制作・進行を経験し、その後のジョブローテーションでIT企業関連の仕事に出会うことになります。
元木 「通信キャリアの仕事を担当することになり、あるときフィーチャーフォンのキャンペーンサイトをつくることになって、それが初めて ITと言われる仕事をした時だと思います。でも、当時はまだ印刷会社の中で ITを扱うことが普通であるという時代ではなかったので、会社の中でも自分たちの部署は少し浮いているなと感じたし、新しいものに触れすぎたせいか、入社当時配属された部署の人たちには『お前変わったな』と言われることもありました」
そんな時、別の会社に転職をした先輩から「一緒にやらないか?」と声をかけてもらったのがきっかけで、5年勤めた印刷会社から、2社目の大手広告代理店のグループ企業へ転職することになります。そこでも徐々にITに関わる仕事をすることが増えていき、「ものづくりにITは切り離せない」と思うようになりました。一方、環境が変わったことでフラストレーションを感じることも多くありました。
元木 「月に数億円の売り上げをつくるという貴重な経験もできたのですが、大きい会社である故に、何も自分で決められなかったんです。自分で考えて進めていても、最終的に外に出すためには何度もいろいろな人に確認をとらないといけなかったし、社内政治的なことも多かったように感じます。自分は企画がやりたくて入ったのに、これでいいんだろうかと思っていました」
そこで、再度やりたいことを見つめ直した元木は、1年半ほどでその会社を辞め、サイバードの門をたたくことになります。
元木 「 ITは当時まだ新しい領域だったので自分で考えられる環境があるだろうと思いましたし、サイバードは自由な感じがしました。実際に入社してみたら、決める人との距離も近かったし、企画を自分で決められないというフラストレーションはなくなりましたね」
プロとして仕事をしたい、それが原動力に
サイバードに入社してからは、コンテンツ事業に携わることになりました。主にはアニメやキャラクター、子ども向けコンテンツなどのエンタテインメント領域のモバイルサイトを担当。複数の案件の企画から運営、営業までを担いました。深夜アニメの公式サイトを担当した時は、夜中にアニメを観て、そのまますぐに企画書をつくって、次の日には権利元へ提案しに行くということも日常茶飯事でした。
元木 「もともと、アニメやキャラクターが好きかと言われるとそうではなかったです。でも、勉強しないと仕事はできない。なので、担当したキャラクター案件のアニメは全部観ましたし、コミックも全部読んで、深く理解をすることに努めました。その他にも、お客様が何に喜んで、何にお金を支払っているのかを肌で知るために、キャラクターのテーマパークに行ってみたり、そこでお客様と直接お話ししたりということもしましたね。“知る ”ためにできると考えつくことは、なんでもやりました」
目の前の仕事に対していつも全力で向き合い、「プロとして仕事がしたい」ということを常に考えている元木。もちろん自分が手がけたコンテンツやサービスへの思い入れもありますが、それよりも、プロとしての仕事を果たしたいという責任感が強くあります。
元木 「仕事を突き詰めていくと、 “これで満足 ”ということはないと思っているので、そこをどんどん際限なく調べたりするといつの間にか沼にはまっているという感覚です。それが周りから見たら “コンテンツ愛 ”に見えるのかもしれないですが、自分の中では少し違っていて。お金をもらっているのだから『プロの仕事をするのが当然だ 』と思います。
人にそれを求めるからには、自分が一番その意識を持たないといけないし、行動しないといけないと思っています。それをやりきった上で、元木さんと仕事して良かった、また一緒にやりましょうって言われるのがとても嬉しいですね」
中途半端な仕事をしない、徹底的にやる。という“プロ意識”が仕事をする上での元木の一番の原動力になっています。
会社が生き残るために ー新規事業創出に向けた覚悟と行動
2016年、そんな元木に転機が訪れます。社内の先輩エンジニアが大型テクノロジーイベントに参加し、スマートスピーカーを持ち帰ってきたのです。当時、海外でもVoice UIが流行り始めていたことは上長からもひっきりなしに聞いていたので、何ができるのかなどを掘り下げて、「おもしろい、サイバードでもやりたいね」となったのが、Voice UI R&Dチーム発足のきっかけでした。その後、いろいろなことが偶然に重なり、Voice UIを新規事業として立ち上げていくことになりました。
元木 「この業界は市場変化のスピードが速いです。故に、“新規事業を立ち上げないと会社は死ぬ ”という考えを持っていたので、自分も新規事業をつくらないといけないという気持ちをずっと持っていました。なので、Voice UIを R&Dという話になったとき、 “時はきた ”という感じがしました」
ただ、もちろん順風満帆なスタートを切ったわけではありませんでした。R&Dはビジネスの種をつくり、実際にどうビジネスに育てていくかを考えるところで、すぐにお金を生み出す訳ではありません。しかし、社内での理解をなかなか得られず、R&Dチームとして確保した工数がやむを得ず他の事業にまわされてしまうこともありました。会社に対してもいろいろな提案をしましたが、「Voice UIの社内プレゼンスが低いから」と指摘を受け、元木は立ち上がります。
元木 「とても悔しくて、正直言うと腹も立ちました。でも、指摘されたことは事実だとも思いました。それならば、我々のプレゼンスを上げていこうと思ったんです。どうやったらプレゼンスが上がるのかと考え、まずは “社外から評価されること ”という結論に至りました。会社として無視できないくらい外部から認められ、大きな期待を寄せられる存在になることを目指そうと思ったんです」
元々は進んで人の前に出る性格ではない元木ですが、サイバードの看板は背負いつつ、まずは個人としてさまざまな外部のVoice UI関連のイベントに足を運びました。当時はまだVoice UIに関する情報が潤沢にある状況ではありませんでしたが、イベントで学んだことや出会った人たちを介して自身も勉強を続ける日々。そうすると、インプットだけでなくアウトプットすることもできるようになっていき、少しずつ自らが登壇できる機会や場所も増えていきました。
そうした泥臭い活動をコツコツと続けたことが実を結び、外部のイベントやカンファレンスから「ぜひ、登壇してほしい」と直接声がかかる存在になることができました。Voice UI部としては、日本におけるVoice UIのAmazon、Google、LINEのマーケットローンチ時から数々のサービスを提供。Amazon、Googleにおいては、国内での課金実装サービスのローンチパートナーとしていち早くサービスを世の中に送り出しました。また、2018年10月には、Amazon社の公式エージェンシーとして認定されるという、“社外から評価される”ことを形にしたのです。
元木 「あのときの状況にただ拗ねたり、苦言を呈してくれた人を煙たがるだけだったら自分の負けだったと思います。もともと人前に出ることがそんなに得意だった訳ではありませんが、四の五の言ってる場合じゃなかった。プラットフォーマーのカンファレンスで、登壇が終わった担当者に突撃して、上長と一緒に『私たち、どうしてもボイスのコンテンツが作りたいんです!』と熱弁したのも、今では良い思い出です。自分が行動を起こして、自分自身が変わっていくことで、環境や流れを変えることができるのを、確信させてくれた貴重な経験です」
Voice UIと共に目指す未来
数年後には、自然にVoiceファーストな世界が日本にもくると考えています。その上で目指すのは、「目から鱗」の体験をお客様に提供すること。そのためには、Voice UIの領域だけやっていてもだめだと感じています。
元木 「発明は組み合わせだと思います。ただ、社外での活動を通して Voice UIをどうビジネスに結び付けていいのかわからないという人も多いことが分かったんです。イメージができないから、自分とは関係ないと思ってしまう。社内でもまだそうかな(笑)。
でも、イメージさえできれば、どんどんつながっていくんですよね。だから、思いついたことはどんどんアウトプットしたいと思っています。自分では普通だと思っていることも、それが発明かもしれないから」
今年からはそういった想いも持ち、AIやIoT、XRなどのイベントにも精力的に足を運んでいます。社内においても、アイデアソンやハッカソンイベントを開催するなど、Voice UIの啓蒙活動に余念がありません。今まで接点のなかった人との接点をつくり、Voice UIを使うイメージを持ってもらいながら、市場の基盤づくりも意識した活動を行っています。
元木 「Voiceを軸にしてアンビエントコンピューティングを地で行きたいと思っています。数年後の未来に向けて、いろいろな目から鱗のサービスをどんどん投入していきたいですし、ソリューションもつくりたいです。そして、それを使う人が『その手があったか!』と思うようなサービスを提供していきたい。勝手に日本の Voice UI市場を背負って立ちます」
忙しい時ほどパフォーマンスがあがるという元木。新しい事業を創ること、新しい市場を開拓して行くことが、会社の未来を創ることと信じて、これからもVoice UIのプロとして未来への道なき道を切り拓いていきます。